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病院経営Q&A

職員のプライベートな問題が、勤務態度にも影響を及ぼしています。対処方法を教えてください。

従業員トラブル

質問

事務スタッフAの素行が悪く、最近は勤務態度にも影響が出てしまい困っています。
具体的には、家賃や税金の滞納があり、病院宛に取り立ての電話がかかってくることもあります。きちんと給与を支払っているのに、なぜ滞納するのか探ってみたところ、どうやらギャンブル依存症らしく、パチンコ屋に入り浸っているようです。
ここ最近は、急に有休を取得して他の職員に迷惑をかけるなど、職場にも悪影響を及ぼしています。

職員のプライベートな問題が、勤務態度にも影響を及ぼしている場合の対処方法について、ご説明します。

基本的に、職員の私生活(プライバシー)尊重の観点から、専ら職員のプライベートな問題を理由に、懲戒処分を課したり、解雇したりすることはできません。もっとも、職員のプライベートな問題が、勤務態度にも影響を及ぼしていたり、病院の名誉や信用を損なう事態に至ったりしている場合には、懲戒処分を課したり解雇したりすることも可能です。

この場合には、懲戒事由に該当するか否か、解雇処分は相当か否かについて、厳格に判断されることになるので、ただちにこれらの処分を行うのではなく、職員と面談を行い、職場に及んでいる悪影響を改善するという観点から、指導を行い、また、指導を行ったことの記録を残しておくことが大切です。

看護師同士の不仲により業務に支障が出ていますが、どう対応すべきですか?

従業員トラブル

質問

看護師Aが、看護師Bに対して、心電図を取るよう指示したが、言い方が気に食わないなどと難癖をつけて指示に従おうとしません。
院長が、他の職員に対して確認したところ、看護師Aと看護師Bは日頃から折合が悪く、どうやら、看護師Aは、看護師Bばかりが院長に贔屓されているといって、不満を漏らしているとのことです。
どのように対応すればよいでしょうか。

ご質問にもあるように、院内の雰囲気がギスギスしたり、スタッフ間の人間関係が悪くなったりしている原因は、院長先生や、理事長、看護師長等が特定の職員を贔屓しているというように、病院側が作り出している可能性があります。
まず、このような状態を未然に防ぐ方法についてご説明します。

院内の人間関係のギスギスを未然に防ぐ方法

特定の職員にだけ待遇を良くしたり、人によって明らかに態度が違っていたりする場合、職員はすぐに察知して、不公平感を覚え、改善しなければ、職員間の折合が悪くなり、病院内の雰囲気が悪くなるばかりでなく、業務に支障をきたします。

このような事態を避けるには、普段から院長や理事長、看護師長等が職員に対して気を配ることが大切です。
具体的には、
1.各職員との会話の回数を意識して、偏りがないようにする、
2.職員に話しかけるときは口調を統一する、
3.常に笑顔を絶やさず、職員によってあからさまに態度を変えない、
といった配慮です。

また、贔屓をしないことも大事ですが、優秀な職員に対する正当な評価が、贔屓と誤解されないようにすることも大切です。
正当な評価をしたつもりが、他の職員にとっては「不公平だ。なんであの人ばかり」と感じられてしまうことは珍しくありません。
これを防ぐためには、職員も納得できるような人事評価制度を職員と一緒に作っていくのも有効でしょう。

さらに、病院側が、各々の職員に対して、「一緒に地域医療に貢献する仲間」という意識を持って接し、一人ひとりの職員を大事にしていることを示すことも重要です。
たとえば、各職員に対して一定の頻度で個人面談を開催し、スタッフが悩んでいること、不満や不安などを聞いたりして、程よく親しい関係を保つようにしていきましょう。

続いて、病院側の言動が、特定の職員に対する贔屓であることによって、現に職員間の不仲を生じさせている場合はどのように対応すればよいかご説明します。

職員間の不仲を改善する方法

まず、公平性を保つために、院長、事務長及び看護師長等、病院側の者が、トラブルを生じている職員それぞれから個別に話を聴き、一方的にどちらが悪いと決めつけることなく、一人ひとりの職員を大事にしていることを示すことが大切です。
その場合、食事をしながら意見を聴くと、贔屓をしているとの誤解を招きかねないので、クリニック内の個室で話を聴くことにも留意してください。

看護師が、医師に対して、批判的な言動をとり、医師の指示に従おうとしません。病院として、どのような対応をとれば良いでしょうか。

従業員トラブル

質問

看護師が、医師に対して、批判的な言動をとり、医師の指示に従おうとしません。病院として、どのような対応をとれば良いでしょうか。

指示に従わないからといってすぐに解雇をしたり当該医師と直接関わる必要のない業務に異動させたりすることは、後々のトラブルにつながりますから、以下の3つのポイントに注意し、慎重に対応することが大切です。

ポイント1.指示の妥当性を確認する

まずは指示の内容および方法が、病院における業務内容として一般通念上妥当なものであるかを確認しましょう。そもそも妥当ではない指示を強要する内容であれば、パワハラとみなされてしまう可能性が高くなりますし、元々割り当てられていない仕事に関する指示や、本来、指示を与える立場にいない職員からの指示の場合なども妥当性が問題になってくるでしょう。

ポイント2.指示をしたという記録及び指示を聞くように指導したという記録を残す

病院側が、指示が妥当なものであると判断した場合、その指示を「いつ、だれが、誰に対して、なんのために」行ったかをメモや日報などに記録しておきましょう。同時に、指示に従わない職員からも「始末書」を書かせる等の方法で「指示をまもらないことについて指導をしたという実績」を記録しておきましょう。

ポイント3.段階的にペナルティーを与えていくか、異動を検討する

最初は始末書などの軽いペナルティーを課し、何度も業務指示を守らない場合はその度合いを強めていくことも検討しましょう。
もっとも、このようなペナルティー(懲戒処分)を課すためには、就業規則に懲戒処分の種別と事由を定めておくことが必要です。
また、指示の発信者と受け手の相性が悪いといった事情があれば、可能であれば直接関わる必要のない業務への異動を検討しても良いでしょう。

勤務医の独立に制限を設ける方法はあるか?

従業員トラブル

質問

当院で新たに勤務医を雇用することとなりました。
将来は、独立を考えているようなのですが、当院の近くで開業されると、患者が減ってしまうのではないかと心配です。
何か対応策はあるでしょうか。

競業避止義務を課す方法があります

憲法では、職業選択の自由が保障されています(憲法22条)。
職業選択の自由の中には、転職の自由も含まれていますので、原則として、勤務医が退職し、新たにどこで開業することも自由です。

ご質問のように、自由に開業されることを防止するためには、競業避止義務を課すことが考えらえます。競業避止義務とは、具体的には、勤務先である病院と競業する病院へ転職したり、自ら競業する病院を営むことを禁止することをいいます。
競業避止義務を課すには、あらかじめ勤務医と合意を取り交わしておく必要があります。
就業規則などに包括的に規定しておくことも考えられますが、個別に合意を取り交わす方が望ましいです。

競業避止義務の範囲

競業避止義務を課す場合であっても、全く無制限に課すことはできません。
たとえば、「一生、日本国内で病院を開業することを禁止する。」といった合意は無効となります。
裁判例では、以下のような事情を総合的に考慮して、競業避止義務の有効性が判断されています。

  1. 勤務先病院側の守るべき利益・競業を禁止する必要性の有無
  2. 勤務医の地位などに照らし、制限を受ける期間、場所的範囲等が相当といえるか
  3. 代償措置の有無及び内容
    1. 特に2については、明確な基準があるわけではありませんので、裁判例などを参考に、事前によく検討する必要があります。期間としては、1年以内にしておくことが望ましいです。

      競業避止義務に違反した場合

      競業避止義務に違反し、近隣で開業された場合などには、損害賠償請求などが可能となります。
      もっとも、損害の立証は容易ではありませんし、訴訟を提起するとなると、時間的・経済的負担も大きくなります。もし、競業避止義務に違反し、開業しようとしていることなどが判明した場合、開業前に、警告書を送付するなど、早期に対応することが必要となります。

      競業避止義務を盛り込んだ優れた就業規則

      ところで、当事務所では、この点の対応についてある病院における、よく考えられた実例を経験しました。

      詳細な雇用契約書を作成し、院長みずから、いろいろな紛争が起きた場合を想定して、これに対応できるよう、弁護士とも何回か打ち合わせし、契約書の中で、勤務時間及び業務内容、競業避止義務、退職金について、創意工夫をした条項を盛り込みました。

      この院長が優れていると思ったのは、長くいてもらいたい優秀な勤務医について、格別の配慮をした点です。

      ただ単に、その医師を縛り付けるような姿勢ではだめで、その病院・診療所に長く勤務したいと思ってもらえるようなインセンティブ、配慮が必要です。普段から思いやりを持った対応をすることも大切ですが、雇用契約上も、魅力ある退職金制度、特殊なインセンティブを与えるような給与体系、住まい・自動車などの提供・貸与などの面でも、工夫されていました。

      なお、この雇用契約書で規定した退職金制度は、金額も高額で、長く勤務するほどアップ率が高くなっていくような、勤務医師にやる気を起こさせ、定年まで長くいたいと思わせるような内容でした。また給料についても、歩合的要素を加味した、勤務医師のモチベーションを高める内容になっていました。

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