質問
当院で新たに勤務医を雇用することとなりました。
将来は、独立を考えているようなのですが、当院の近くで開業されると、患者が減ってしまうのではないかと心配です。
何か対応策はあるでしょうか。
競業避止義務を課す方法があります
憲法では、職業選択の自由が保障されています(憲法22条)。
職業選択の自由の中には、転職の自由も含まれていますので、原則として、勤務医が退職し、新たにどこで開業することも自由です。
ご質問のように、自由に開業されることを防止するためには、競業避止義務を課すことが考えらえます。競業避止義務とは、具体的には、勤務先である病院と競業する病院へ転職したり、自ら競業する病院を営むことを禁止することをいいます。
競業避止義務を課すには、あらかじめ勤務医と合意を取り交わしておく必要があります。
就業規則などに包括的に規定しておくことも考えられますが、個別に合意を取り交わす方が望ましいです。
競業避止義務の範囲
競業避止義務を課す場合であっても、全く無制限に課すことはできません。
たとえば、「一生、日本国内で病院を開業することを禁止する。」といった合意は無効となります。
裁判例では、以下のような事情を総合的に考慮して、競業避止義務の有効性が判断されています。
- 勤務先病院側の守るべき利益・競業を禁止する必要性の有無
- 勤務医の地位などに照らし、制限を受ける期間、場所的範囲等が相当といえるか
- 代償措置の有無及び内容
特に2については、明確な基準があるわけではありませんので、裁判例などを参考に、事前によく検討する必要があります。期間としては、1年以内にしておくことが望ましいです。
競業避止義務に違反した場合
競業避止義務に違反し、近隣で開業された場合などには、損害賠償請求などが可能となります。
もっとも、損害の立証は容易ではありませんし、訴訟を提起するとなると、時間的・経済的負担も大きくなります。もし、競業避止義務に違反し、開業しようとしていることなどが判明した場合、開業前に、警告書を送付するなど、早期に対応することが必要となります。
競業避止義務を盛り込んだ優れた就業規則
ところで、当事務所では、この点の対応についてある病院における、よく考えられた実例を経験しました。
詳細な雇用契約書を作成し、院長みずから、いろいろな紛争が起きた場合を想定して、これに対応できるよう、弁護士とも何回か打ち合わせし、契約書の中で、勤務時間及び業務内容、競業避止義務、退職金について、創意工夫をした条項を盛り込みました。
この院長が優れていると思ったのは、長くいてもらいたい優秀な勤務医について、格別の配慮をした点です。
ただ単に、その医師を縛り付けるような姿勢ではだめで、その病院・診療所に長く勤務したいと思ってもらえるようなインセンティブ、配慮が必要です。普段から思いやりを持った対応をすることも大切ですが、雇用契約上も、魅力ある退職金制度、特殊なインセンティブを与えるような給与体系、住まい・自動車などの提供・貸与などの面でも、工夫されていました。
なお、この雇用契約書で規定した退職金制度は、金額も高額で、長く勤務するほどアップ率が高くなっていくような、勤務医師にやる気を起こさせ、定年まで長くいたいと思わせるような内容でした。また給料についても、歩合的要素を加味した、勤務医師のモチベーションを高める内容になっていました。