質問
近年、インフォームド・コンセントが重要という話をよく耳にしますが、具体的によく分かりません。
とりあえず、患者から同意を取れば良いだろうと思い、治療方針について所定の同意書にサインしてもらうようにしていますが、インフォームド・コンセントが十分になされていない場合、患者から責任追及されるおそれはあるのでしょうか。
まず、インフォームド・コンセントとは、医療行為に際しては十分な説明に基づく患者の同意を得なければならないという原則を意味するもので、この原則は、患者が自らの意思で医療行為を受けるか否かを決定することができる権利、すなわち自己決定権を最大限尊重するという理念に基づくものです。
もっとも、患者の自己決定権を最大限尊重するといっても、医学について素人である患者の立場では、医師等の医療従事者から適切な情報の提供を受けなければ、自己決定権を適切に行使することはできません。そこで、診療に際しては、患者が自らの意思で当該医療行為を受けるか否かを決定するために必要な情報を医師から与えられていることが前提となります。
以上のことから、インフォームド・コンセントが成立するためには、
①患者に同意能力があること、
②医療従事者が適切な説明を行ったこと、
③医療従事者の説明を受けた患者が任意の意識的な決定により同意したこと
が必要となりますので、説明文を示し、口頭で説明した上で、同意書にサインしてもらうことが有効です。
もし、インフォームド・コンセントが十分になされないまま、患者が望まない手術が実施された場合、仮にその手術自体に何の落ち度もなかったとしても、説明義務違反それ自体が理由となって損害賠償責任が認められることがあります。
一般の中小規模の病院・診療所では、多くの患者が風邪、腹痛の急性疾患、あるいは高血圧、糖尿病、腰痛などのシンプルな病気で来られ、診療方針も定型的な場合は、それほど神経を使った説明をしなくてもいいかもしれません。しかし、思わぬ病状の急変があったり、重篤化する場合とか、説明した今後の病状の見通しが外れたりすると、責任追及されることがありえます。また、患者本人や、その親族の方達が、モンスター化し、クレイマーになるケースもあります。このように変身する怖れがある方への対応は、慎重にしなければなりません。